大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

福岡高等裁判所宮崎支部 昭和54年(ネ)27号 判決 1980年3月31日

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一控訴人

1本案前

原判決中被控訴人原田和に関する部分を取り消す。

被控訴人原田和の訴えを却下する。

訴訟費用は第一、二審とも被控訴人原田和の負担とする。

との判決。

2本案

原判決を取り消す。

被控訴人らの請求を棄却する。

訴訟費用は第一、二審とも被控訴人らの負担とする。

との判決。

二被控訴人ら

主文同旨の判決。

第二 当事者双方の事実上の陳述及び証拠関係は、被控訴人原田和において、「控訴人の本案前の主張は争う。被控訴人原田は、本件遺言書につき遺言者の作成名義を偽つたものでなく、またこれに加除訂正を加えた訳でもないから偽造又は変造にあたらない。民法八九一条五号の偽造又は変造とは、もともと有効な遺言書を対象とするものであり、本訴はその遺言書の有効無効が本案審理の対象となつているのであるから、実体的審理をしなければならず、したがつて、控訴人の本案前の主張は理由がない。」と述べ、控訴人において、「被控訴人原田和の本件訴えは、本件遺言の無効確認を求める当事者適格を欠く不適法なものであるから、これが却下を免れない。遺言無効確認の訴えを提起できる者は、相続人又は受遺者であることを要するところ、被控訴人原田和は亡原田の相続人又は受遺者としての資格を有しない。同被控訴人は、その主張によると、昭和四九年五月二四日、遺言者の名下その他の箇所に遺言者の押印がなかつた本件遺言書に同人の印鑑を押捺してもともと無効な遺言書に有効な外形を作出したというものであり、また同年四月二九日、遺言者名下ほか二箇所に同人の捺印があつた本件遺言書につきその余の二箇所に同人の印鑑を押捺してもともと有効な遺言書の外形を変えた、というものであるから、同被控訴人は、相続人に関する被相続人の遺言書を偽造し又は変造した者にあたる。しかも、同被控訴人は、当時係属していた同被控訴人らと田島貴美子の夫稔弘との間の訴訟を有利に遂行するため、右訴訟を委任していた弁護士隈元孝道の助言により、右偽造又は変造を敢行したものであるから、別被控訴人の右の行為は明らかに自己の利益を企図してなされたものである。したがつて、同被控訴人は民法八九一条五号及び九六五条によつて右原田の相続人及び受遺者となることができない。」と述べ、当審証人内藤朗玄の証言を援用したほか、原判決事実摘示(ただし、原判決書二枚目表七行目中「他の」を「一葉目の一行目及び五行目中の訂正」に改める。)のとおりであるから、ここにこれを引用する。

理由

一本案前の主張について

民法八九一条五号(同法九六五条に準用する場合を含む。)に規定する「偽造」とは被相続人名義で相続人が遺言書を作成することをいい、「変造」とは被相続人が自己名義で作成した遺言書に相続人が加除訂正その他の変更を加えることで、これが変造は有効に成立した遺言に対してなされたものであることが必要であるものと解すべきところ、被控訴人原田和は本件遺言書を偽造したものでないことは弁論の全趣旨により明らかであり、同被控訴人が本件遺言書を変造したとの点についても、後記認定説示のように被相続人原田實の作成した本件遺言書は自筆証書による遺言の法定の要式に欠ける無効なものであるから、同被控訴人においてこれに加除訂正その他の変更を加えたとしても民法八九一条五号所定の「変造」に該当しないのであつて、同被控訴人の右の行為により相続人となることはできなくなるものではなく、したがつて同被控訴人が相続欠格者であることを理由とする控訴人のこの点に関する主張は理由がない。

二 本案につき、当裁判所は、原判決書三枚目裏一二行目中「朗玄」の下に「(原審及び当審)」を加えるほか、原判決と同じ理由で、被控訴人らの本訴請求は理由がありこれを正当として認容すべきものと判断するので、ここに原判決の理由を引用する。

三 したがつて、被控訴人らの本訴請求を認容した原判決は相当であつて、本件控訴は理由がない。

よつて、本件控訴を棄却し、控訴費用は敗訴の当事者である控訴人に負担させることとして、主文のように判決する。

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例